金融の知識

危険!インボイス制度が個人事業主に与える
2つの影響と対策!

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個人事業者にとって会計経理や税金周りの処理は非常に面倒に感じますよね。
本業に集中できないことから普段は会計処理を外部委託したり、顧問税理士に丸投げしている人も多いと思います。
ところが今「インボイス」という制度が新設されることにともない、様々な方面から注意喚起の声が上がっています。
事業者であれば自分でインボイス制度を理解し、必要な手続きを取って対処していくことが求められます。
本章では近々導入されるインボイス制度について、個人事業主に対する影響や対応策を見ていきます。

■インボイス制度とは?

インボイス制度イメージ画像

インボイス制度は、ごく簡単に言うと消費税の適正な納税がなされるようにするためのものです。
国側の税収確保が適切になされることや、一部の事業者が益税といって本来国に治めるべき消費税をそのまま自社の利益にしてしまうことを抑止する効果が期待されています。
しかし多くの個人事業主にとってインボイス制度の導入はデメリットが多く、反対の声が多く聞かれます。
個人事業主の場合、売り上げが1千万円以下であれば免税事業者として消費税を納めなくても良いことになっているのですが、インボイスの導入によって取引先から消費税の課税事業者になるように圧力を受ける可能性があります。
次の項からは売り上げが1千万円以下の免税事業者、及びこれを超える課税事業者の別に分けて、インボイス制度の影響や注意点を見ていきます。

■影響その1:免税事業者の場合

免税事業者影響イメージ画像

売り上げが1千万円以下の個人事業主は本来的に消費税の支払は必要ありません。
しかし個人事業主が取引をしている相手が課税事業者の場合、取引先から「的確請求書(以下インボイス)」の発行を求められる可能性があります。
そうしないと、取引相手は仕入れ税額控除が利用できず税金の負担が大きくなってしまうからです。
仕入れ税額控除とは、自身が納税すべき消費税から、仕入れ面でかかった消費税を控除することができるもので、税負担を下げる効果があります。
これを利用するには、取引相手にインボイスを発行してもらう必要があります。
問題は、インボイスを発行するには適格請求書発行事業者として登録が必要であり、登録するためには消費税の課税事業者にならなければならないということです。
そうすると、これまで消費税を納めなくても良かった免税事業者たる個人事業主も、取引先から適格請求書発行事業者となるよう(つまり消費税の課税事業者となるよう)に圧力を受ける可能性が出てきます。
ただし建前上は、適格請求書発行事業者としての登録はあくまで任意となっています。
これがある意味あくどいところで、取引先からインボイスの発行を求められれば、これに応じられないと取引を断られたり、値下げを要求される可能性が出てくるのです。
例えばある会社A立場になって、100万円(税込みで110万円)の仕事を誰かに発注したいと考えたとしましょう。
適格請求書発行事業者に依頼する場合、消費税分の10万円については仕入れ税額控除を使うことで消費税額から控除できます。
しかし免税事業者に発注する場合、消費税10万円分について税額控除が使えず、その分の税負担が増えてしまいます。
そのため成果物が同じであれば免税事業者よりも適格請求書発行事業者に依頼したいと思うでしょう。
免税事業者に依頼するとしても、税額控除が使えなくなる分の負担分の値下げを相手に要求したいと思うでしょう。
このため免税事業者側としては、そのままでいる選択も可能ではあるものの、その場合は値下げを要求されたり、取引先が適格請求書発行事業者に逃げてしまう可能性が出てくるわけです。
免税事業者は、適格請求書発行事業者になれば税負担が増え、これを避けて免税事業者の道を選べば取引先に避けられるという、どちらに転んでもいばらの道となってしまいます。

■影響その2:課税事業者の場合

課税事業者影響イメージ画像

個人事業主側の売り上げが1千万円を超えていて元々消費税の課税事業者である場合は関係ないのかというと、そうではありません。
インボイスに対応できる体制とするために多方面で手間が増えます。
まず、取引先から求められるインボイスを発行するにはやはり税務署への登録が必要です。
この手続きをとらないとインボイスを発行できないので、免税事業者と同じように取引先から消費税分の価格値下げを要求されたり、取引を避けられる可能性が出てきます。
そしてインボイスを発行するには請求書のフォーマットを変えたり、仕分けの計算などで調整が必要になります。
経理業務の煩雑化につながることは必至で、少なからず本業の圧迫につながることが予想されます。
そして、インボイス制度に対応するために的確請求書発行事業者として登録するには期限があるので注意を要します。
すでに課税事業者であるか免税事業者であるかに関わらず、登録期限を意識する必要があるので、次の項で確認します。

■インボイス制度の開始時期と登録手続き期限

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インボイス制度の開始は2023年の10月1日からとなっています。
まだ少し余裕がありそうにも思えますが、制度の開始時期と的確請求書発行事業者の登録期限は別ですので注意が必要です。
2023年の10月1日から的確請求書発行事業者として稼働するには、2023年3月31日までに税務署で手続きを済ませておく必要があるので、この点に特に留意を要します。
現時点で免税事業者の方は、課税事業者となるための消費税課税事業者選択届出書の提出も必要です。
税務署への登録手続きは2023年の10月1日の制度開始直前では間に合いませんので、早めに手続きを取るようにしてください。
登録手続きについては所轄の税務署に問い合わせるか、税理士等の専門家に相談して滞りなく進められるようにしてください。

■インボイス対応の準備はどうする?

準備確認イメージ画像

税務署への登録手続きだけでは実務への対応はできません。
各事業者は登録手続きとは別に、以下のような面でインボイス対応への準備が必要になります。

①適切な証憑書類を出せるようにしておく

証憑書類とはレシートや請求書などの書類のことで、インボイスに対応するためには証憑書類の記載事項に登録番号や適用税率、消費税額などの追加事項の記載が必要になります。
適切な証憑書類となるように記載が必要となる内容を理解しておかなければなりません。

②会計ソフトの更新や変更

インボイス対応に伴い、経理面で仕分けの方法に違いが出ると会計処理が煩雑になります。
インボイスに対応できる会計ソフトへの変更、導入などにも時間がかかるでしょうから、早めに済ませておくようにしましょう。

③レジ機械の変更

業務でレジを使っている事業者はインボイスに対応できるレジ機械に変更が必要です。
これにも時間と手間がかかるでしょうから、早めに導入時期を検討して準備しておきましょう。

■補助金を使えることも

補助金イメージ画像

インボイス対応に伴って会計ソフトやレジなどの機材にお金がかかることから、事業者にとっては大きな負担になります。
この点についてはぜひ補助金施策を有効に活用したいところです。
経済産業省が所管する事業の一つにIT導入補助金という施策があり、会計ソフトやレジ機械などの導入にかかる費用の一部を補助してもらうことができます。
本施策では、これまでも通常枠として業務の効率化や売上アップを狙って会計ソフト等を導入する場合に最大で450万円の補助を受けられましたが、インボイス制度の導入を見据えてデジタル化基盤導入枠が新設されています。
会計ソフトなどのソフトウェアの他、レジ機械などのハードウェアも補助の対象になり、最大で350万円の補助を受けられるので大きな助けになります。
IT導入補助金に関してはこの他にセキュリティ対策推進枠としてサイバーセキュリティ対策関連費用について最大100万円の補助をうけられる枠も設けられたので、ぜひ有効に活用しましょう。

■早めに専門家に相談すること

専門家イメージ画像

インボイスについては制度自体が大きな混乱をもたらすとして見直しを求める声が多くあることも事実ですが、現段階では政府は推し進める姿勢ですので、事業者側は否応なく対応を求められることになります。
インボイス対応に関してはぜひ税理士等の専門家に相談するなどして、できるだけ不利益が生じないように早めに行動を取るようにしてください。
補助金に関しても合わせて相談することで少しでも費用負担を避けられます。

■まとめ

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本章では近々導入されるインボイス制度について、個人事業主に対する影響や対応策を見てきました。
反対の声も多数あり国内経済への悪影響も指摘されていますが、制度開始は目前に迫っています。
個人事業主の方は今後の事業の進め方に大きく影響しますので、早めに専門家に相談の上で今後の出方を考えるようにしてください。