ある程度の規模で会社を運営するならば、従業員を雇わなければ会社を回していくことはできないでしょう。
実働部隊となって働いてくれる従業員には給料という見返りによって満足を得てもらっていますから、これが支払えないとなれば会社の一大事です。
従業員は普段は経営者の味方として働いてくれますが、給料の支払いを受けられなければ訴訟などで敵対してしまう可能性が非常に高いので、支払いの遅れや未払いは絶対に避けたいものです。
本章では従業員の給料が払えない場合の対処法について解説していきますので、ぜひ参考になさってください。
Contents
従業員の給料支払いは最優先事項
会社が支払う経費は様々ありますが、実は優先順位はある程度決まっていて、未払いが起きた場合のリスクやデメリットが大きいものから優先して支払いを考えるのがセオリーとされています。
代表的な支払い項目を優先順位の高いものから挙げてみます。
①従業員の給料 ②買掛金の支払い ③家賃や水道光熱費 ④税金や社会保険料 ⑤銀行からの借入金 |
従業員は仲間だから少しくらい後回しにしてもいいのではないか?と思った方は要注意です。
②~⑤ももちろん支払いを滞らせれば取引の停止など事業の運営に支障が出ますが、従業員の給料というのは未払いを起こすと他の項目よりも問題が大きくなる可能性をはらむため、最優先で考える必要があるのです。
給料未払いは刑事責任を負うこともある
主に労働基準法や最低賃金法などによって給料関係の権利が整備されているのですが、これらの法律では従業員への給料の未払いに対して刑事罰を適用しています。
そのため経営者が逮捕される可能性があり、過去には実際に3ヶ月分の給料の未払いを起こした経営者が逮捕されています。
未払いの給料に対しては遅延損害金が発生するなど、民事上でも経営者の負担が重くなりますが、最大のリスクはやはり刑事責任を負う可能性があるということです。
少額の給料を請求する裁判は簡単にできる
中には、1か月、2か月程度の給料はたかが知れているから、少額のために時間や労を払って裁判までは起こさないだろうと考える人もいるかもしれません。
ところが、金額が60万円以下の場合は少額訴訟という方法を用いることができ、1日で審理を終えて判決を得られるだけでなく、費用も数千円程度で済むため裁判のハードルがとても低いので、未払いを起こした経営者は逆に裁判を起こされやすいということが言えます。
給料の未払いを起こした責任は少なくとも従業員にはないでしょうから、特段の事情が無ければ経営者の責任が認定されることになります。
給料の支払い方は法律で決められている
裁判沙汰になる前に、何とか給料の未払いや支払い遅延が起きないように配慮する必要がありますが、給料の支払いについては法律でルールが決められており、柔軟に変更することができません。
中でも経営者が絶対に押さえておかなければならない5つの原則について確認します。
①通貨払いの原則
給料は日本の通貨で支払わなければならないというルールで、現物支給や海外の通貨などは原則として認められません。
日本国内で生活していくことを考えて、すぐに使える日本通貨で支払わなければなりません。
②直接払いの原則
これは給料を従業員本人に直接支払う必要があるということで、代理人を通しての支払はできないということです。
代理の支払いを認めてしまうと第三者による賃金搾取が起きる危険があるためです。
③全額払いの原則
経営者からみると柔軟性がありませんが、賃金の未払い分を盾にして労働者が不当に足止めされることを防ぐためです。
税金や社会保険料など従業員側に支払い義務のある項目については天引きが認められますが、それら以外の親睦会費などを給料から天引きする場合は労使協定によって労働者の同意を取る必要があるのでこちらも注意が必要です。
④毎月払いの原則
給料は最低でも月に一回は支払わなければならないので、これも経営者に負担となることがあります。
労働基準法は労働者の保護を目的にしているので仕方がないのですが、給料の支払い期間が開いてしまうと日々の生活資金に不足が生じたり、各種ローンの支払などに支障が出ることがあるのでこのようなルールが設けられています。
⑤一定期日払いの原則
給料の支払いは日付を指定して、これに遅れずに支払うというルールです。
月に一回の給料をもらうとしても、その日付が不明確だと手元にいつお金が入るか分からないので、従業員の生活が不安定になってしまいます。
従業員との交渉で支払いを待ってもらうことも不可能ではありませんが、その場合は士気が低下し会社に不信感を持たれることになりますから、以降の会社運営に多大な影響が出ることが予想されます。
支払遅延が起きないように全力を挙げて対処する必要があるので、次の項からは給料の支払いが苦しくなった場合の対応策について見ていきます。
安全に対処するにはビジネスローンが最適
給料の支払いに充てる資金の用意が難しい場合には、ビジネスローンで資金繰りを調整するのがお勧めです。
銀行の一般的な融資だと手元に資金を用意できるまでに月単位の時間がかかることが多いですが、ビジネスローンであれば数日程度で資金を用意できるので、給料の支払期日が迫っているシーンでも間に合わせることができます。
担保や保証人の用意が無くても数十万円から数百万円までの融通が可能なことが多いので、いざという時に強い味方になります。
給料の支払い遅延が一度でも起きてしまえば、たとえ後で支払いができたとしても、その後はずっと従業員から疑いの目で見られることになります。
一度の遅延も許されないのが従業員の給料だと考える必要があるでしょう。
ビジネスローン以外の対処法
ではビジネスローンの利用が叶わなかった場合はどのように対処したら良いでしょうか。
すでに多額の融資を受けていて信用枠がなく、別途保証人や担保の用意もできないなどでビジネスローンの利用を断られてしまうこともあるかもしれません。
そのような場合は以下のような方法も検討できます。
①役員報酬の減額を検討する
従業員ではなく、取締役など役員の報酬を減額することによって資金を捻出し、従業員の給料支払いに充てるということも可能です。
ただし役員にも生活がありますから、取締役会での承認を経るなどの手続きが必要です。
そして役員会の開催は日程調整が必要で一定の期間が必要ですから、給料の支払いに間に合わないこともあります。
可能ではあるものの、現実的な選択肢としては難しい面もあります。
②取引先への支払いを猶予してもらう
買いかけ先や融資を受けている金融機関などに対して、支払いを遅らせてもらえるように交渉することもできます。
ただし相手のあることですから認めてもらえるとは限らず、むしろ反感を買ったり、債権回収として法的措置を取られてしまうリスクもあります。
経営難による支払い遅延を予想して、今後の取引を控えられたり、裁判を起こされて財産の差し押さえを受けるリスクもあります。
経営者としては大変なリスクを負うことになるので、取引先に対する相談を実行するかどうかは熟慮が求められます。
③未払賃金立替払制度を検討する
もう会社の倒産が確実であるような場合は、ビジネスローンによる資金調達も難しいと思われます。
会社の倒産によって賃金の未払いが起きた場合、一定の条件を満たすと国の未払賃金立替払制度を利用することができます。
労働者の年齢によって立て替え支給の金額上限が変わる他、本制度を利用するには会社側、従業員側双方に一定の条件が課せられます。
本制度について詳しくはこちらで確認できます。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shinsai_rousaihoshouseido/tatekae/index.html |
実際に利用を検討する場合は最寄りの労働基準監督署に相談することになります。
まとめ
本章では従業員の給料が払えない場合の対処法について見てきました。
給料の未払いは刑事責任を追及される危険がある重大な事態であり、支払い遅延においてもその影響は多大ですから絶対に避けなければなりません。
会社の倒産に次ぐ非常事態と言えますから、緊急に対応策を考える必要があります。
役員の報酬カットなどの方策も検討できるものの、実効性やリスクを考えると実施は難しいことが多いでしょう。
迅速に資金を用意するにはビジネスローンの利用が最適ですので、まずは優先して検討してください。