通常、融資契約の際には融資元が融資先の事業内容を確認し、実績や収入の状況を精査して返済能力を判定し、融資の可否を検討します。
その場合でも、公的な機関が提供する支援制度を利用して資金を調達できる可能性もあるので、ぜひ知っておきたいところです。
本章では自己資金がなくても創業融資で起業する方法について解説していきます。
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日本政策金融公庫を利用する
創業前、あるいは創業直後で体力、信用、資金面で脆弱な事業者を支援し、国内経済を支える役割を持つのが日本政策金融公庫です。
民間の金融機関では融資が望めない事業者にも資金調達の道を開き、新たな事業の創出を後押ししています。
日本政策金融公庫でまず検討できるのが新創業融資です。
①新創業融資
新創業融資は新規に事業を始める方や、創業後間もない方向けに無担保、無保証で最大3000万円の融資が可能です。
本制度は原則として創業資金総額のうち10分の1以上の自己資金が必要で、この点は知っている人も多いことから、「じゃあ自分はダメだな」と早合点する人もいます。
ただこれには例外規定があって、以下のどちらかに該当する場合、上記の自己資金要件が外れるのです。
①現在勤めている企業と同じ業種の事業を始める場合 ②産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める場合 |
①については分かりやすいと思いますが、同業種で起業する場合は経験の下支えがあることから事業を軌道に乗せやすいため、融資の目的が達成されやすいと考えられるからです。
②の方は、正直一般の方には馴染みが無いので取っつきにくいと思います。
「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業」というのは、簡単にいうと各自治体が行う起業家の養成事業で、この事業に参加することで起業家は経営者としての能力を向上させ、事業を成功に導きやすくなります。
では自治体が行う認定特定創業支援等事業がどのようなものかというと、財務管理や人材の育成、あるいは販路の獲得についてなど、経営に関する全般に関して創業塾、あるいはセミナーのような形で行われます。
新創業融資の融資限度額は3000万円で、そのうち運転資金としては1500万円が限度です。
金利幅は1.01%~2.80%の設定ですが、最低の1.01%は担保などを用意できるケースに限られます。
無担保、無保証では2.41%~となるのが通常です。
②中小企業経営力強化資金
次に見ていくのは「中小企業経営力強化資金」についてです。
こちらの融資は制度上で一定の自己資金の保有を条件にしていないので、求められる各種条件を満たせば利用が可能です。
本融資制度は個人事業主及び小規模事業者と中小企業で利用条件が異なりますが、主要な条件は共通しており、以下の2点となります。
a.「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」を完全に適用している方または適用する予定である方 b.事業計画書を策定し、中小企業等経営強化法に定める認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている方 |
aは妥当な会計方法に則っているかということですが、大事なのはbです。
具体的には商工会や商工会議所、税理士や公認会計士、弁護士、中小企業診断士、地元の金融機関などです。
こうした経営に関する各種専門知識を有する支援機関に経営相談に乗ってもらうなどして、適切な指導を受けることにより、経営能力の向上を図ることができます。
ただし上記の認定支援機関は、例えば税理士であればだれでも良いというわけではありません。
各専門家や団体は、国に申請して認定支援機関と認めてもらう必要があり、これにより経営支援機関としての資質を維持しています。
③挑戦支援資本強化特別貸付
次に見ていくのは「挑戦支援資本強化特別貸付」です。
新規事業の開始だけでなく、企業再建、海外への展開など挑戦的なビジネスモデルに対してなされる支援制度です。
ベンチャーやスタートアップ企業など資金面で安定しない事業者を財政的に支えられるよう、本制度により調達した資金は他の金融機関で融資を受ける際に資本としてみなされるようになっています。
資本の場合は返済の必要のない資金で、会社の土台となるものですから、融資の際には逆にプラスの要素として見てもらうことができます。
本制度は小規模事業者及び個人事業主と中小企業とで条件に細かい違いがあるので、以下で主なものを表でまとめてみます。
<小規模事業者及び個人事業主>
対象者・利用条件 | 1.次の(1)から(5)までのいずれかの融資制度の対象となる方 新規開業資金 新事業活動促進資金 海外展開・事業再編資金 事業承継・集約・活性化支援資金 企業再建資金 2.上記に加えて次のすべての要件も満たす方 地域経済活性化にかかる事業を行うこと。 税務申告を1期以上行っている場合、原則として所得税等を完納していること。 |
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融資限度額 | 7200万円 |
利率 | 融資後1年ごとに、直近の業績に応じて、返済期間ごとに2区分の利率を適用。全体として0.90%~6.45%の幅となります。 |
担保・保証人 | 無担保・無保証人 |
<中小企業>
対象事業者 | 新規事業、経営改善、企業再建などに取り組む方で、地域経済の活性化のために新規の雇用や雇用の維持が期待できる事業、地域社会にとって不可欠な事業、技術力の高い事業などに取り組む方。 |
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融資限度額 | 10億円 |
利率 | 貸付後1年ごとに、直近決算の業績に応じて、2区分の利率を適用。全体として0.50%~5.70%の幅となります。 |
担保・保証人 | 無担保・無保証人 |
信用保証協会の保証付き融資(制度融資)
日本政策金融公庫以外に、創業融資を受けるにあたり信用保証協会を活用することもできます。
信用が薄く民間の金融機関からの融資が望めない場合でも、公的な機関である信用保証協会の保証を取り付けることで、弁済に係る金融機関側のリスクを低減し、融資の獲得につなげるものです。
信用保証協会は各自治体に設定されており、一定の保証料を取ることで、公的な保証を提供します。
これを基に融資を希望する事業者は地元の民間金融機関に融資を申し込みますが、万が一返済が滞った場合は信用保証協会が代位弁済を行うので、金融機関はリスクなく融資に応じることができます。
これにより自己資金なしでも融資に応じてもらえる可能性が出てきますが、信用保証協会の保証を取り付けたからといって、必ず金融機関が融資に応じるとは限りません。
代位弁済後は信用保証協会が債権者となり、事業者は引き続き当該者に対し残債の一括弁済義務を負います。
信用保証協会のデメリットとして、保証料として金銭的な損失が生じる他、金融機関と信用保証協会の両者において信用調査が必要となります。
銀行単独による創業融資は期待薄
一般の民間銀行においては、信用保証協会の保証なしで、しかも自己資金なしの創業融資はまず望めません。
地方銀行においては、「きらぼし銀行」などごく一部の銀行で創業融資の取り扱いがあるようですが、こうしたものも実際には地元の経営に関わる各種機関、団体からの支援が必要だったり、経営に関するなんらかのコンテストで上位に入る必要があるなど、ハードルは高くなるのが普通です。
自己資金がないなら作ることもできる
中には「自己資金が無い」と思い込んでいる人もいると思います。
今手元に現金がなくても、作り出す手段はいくつかあるので、まだ未検討であれば確認してください。
例えば以下のような方法で資金を用意できないか考えてみましょう。
・親族から贈与してもらう ・過去に相続した財産で換価できるものがないか検討する(不動産は直接担保に使用可) ・生命保険の解約で解約返戻金を受け取る ・貴金属や自動車などを現金化する etc |
上記のうち、親族からの贈与は証拠の残る方法(振り込みなど)で行い、贈与契約書の作成によって証拠を残すことが重要です。
タンス預金は資金の出所が分からないため自己資金として認めてもらえないので、この点に注意が必要です。
まとめ
本章では自己資金がなくても創業融資で起業する方法について見てきました。
日本政策金融公庫の融資制度でいくつか使えるものがある他、信用保証協会の保証を取り付けて融資を申し込むといった方法が考えられます。
一般の民間銀行単独では自己資金なしの融資は難しいので、上記公的機関の活用をまず考えましょう。
自己資金が足りなくても、自力で調達する方法もあるのでぜひ一考を頂ければと思います。