一般の銀行は民間事業者ですので、リスクを考えて融資を控えることも多く、必要なシーンでお金を借りられないといったことはよくあります。
融資拒否は特に中小の事業者にとって死活問題となりやすく、こうした経営体力のない事業者でも利用可能な公的な資金供与の仕組みが必要です。
その一角をなすのが「マル経融資」で、地元の商工会議所等を通じて融資の申請を行う珍しいスタイルです。
本章ではマル経融資の性質や利用条件、申し込み手順などを詳しく見ていきますので、ぜひ参考になさってください。
Contents
マル経融資とは?
マル経融資は日本政策金融公庫が資金を拠出する公的な融資事業です。
民間の金融機関が取引を拒むようなケースでも、国内の経済活性という公的な目的のために事業資金を提供することが日本政策金融公庫の事業目的となっています。
同公庫は様々な融資政策を行っていますがマル経融資はある意味特殊で、相談や融資の直接の申し込みは地元の商工会もしくは商工会議所に対して行います。
商工会と商工会議所は似ていますが別組織で、ごく簡単に違いをまとめると以下のようになります。
商工会 | 商工会議所 | |
関係法令 | 商工会法 | 商工会議所法 |
地区単位 | 町村 | 市 |
加入者 | 主に個人事業者や中小事業者 | 主に中小企業、一部大企業 |
商工会と商工会議所はどちらも非営利の団体で、加入事業者に対して各種の支援を行います。
商工会、商工会議所どちらもマル経融資の相談、申し込みができ、必ずしも商工会や商工会議所の加入者でなくとも利用は可能です。
マル経融資の融資内容
ではマル経融資の概要を見てみましょう。
融資限度額 | 2000万円 |
---|---|
資金使途 | 運転資金、設備資金 |
利率(年利) | 年1.21% |
返済期間 | 運転資金7年以内、設備資金10年以内 |
据え置き期間 | 運転資金1年以内、設備資金2年以内 |
据え置き期間とは元本の支払いが不要で利息の返済だけでOKとされる期間です。
資金使途に制限はありますが、最高2000万円とかなりまとまった資金調達が可能な点で優れています。
マル経融資の利用条件
マル経融資は公的性質を持つため、利用条件は民間の金融機関と比べてかなり縛りが強くなります。
以下で条件を見てみましょう。
①法人または個人事業主であること
商工会や商工会議所の会員であることは条件となっていないので、事業を行う個人または法人であればOKです。
②従業員が20人以下であること
小規模事業者を支援する施策であることから従業員数が20人以下であることが条件となります。
③宿泊業を除く商業・サービス業の場合は従業員が5人以下であること
商業、サービス業は本来的に少数で運営されることが多いため、さらに人数制限が厳しくなります。
③商工会または商工会議所の経営指導を6か月以上受けていること
公的資金を投入する対象としてふさわしい相手とするため、経営指導を半年以上受けていることが条件となります。
④税金の滞納がないこと
所得税や法人税、事業税など各種の税金に滞納があると適格性なしとしてマル経融資は利用できません。
⑤1年以上の事業を行っていること
すでに1年以上事業実績のある事業者でなければならず、スタートアップ直後や創業前の場合は利用できません。
⑥非対象業種でないこと
日本政策金融公庫は取引の対象外としている業種がいくつかあり、その業種を行う事業者はマル経融資を利用できません。
非対象業種には以下のようなものがあります。
・ソープランド業 ・競輪・競馬 ・パチンコホール ・場外馬券売場 ・銀行業 ・賃金業 ・クレジットカード業 ・金融商品取引業 ・商品先物取引業 ・保険業 ・福祉事業所 ・更生保護事業 ・政治団体等 |
概観として、主に風俗関係、ギャンブル関係、金融関係、政治関係、福祉関係などが対象外となっています。
コロナの影響を受けている場合は特例もある
新型コロナウイルスの影響で最近1ヵ月の売上高が前年または前々年同期と比して5%以上減少している事業者は特別に優遇される特例もあります。
特例の内容は以下のようになります。
①貸付限度額が別枠で1000万円UPする ②利率が当初3年間0.31%に低減される ③据え置き期間が運転資金4年以内、設備資金は3年以内に延長される |
さらに、個人事業主、フリーランス、売上高が15%以上減少している法人の小規模事業者、売上高が20%以上減少している中小企業については3年間無利子とすることができます。
コロナ倒産を避けられるよう、特別な手当てがされているので、対象になる場合はぜひ検討しましょう。
マル経融資のメリット
マル経融資と他の一般的な融資を比較すると、大きなメリットは二つあります。
一つは無担保、保証人なしで高額の融資が望める点です。
最高2000万円という数字は融資金額としてかなり高額ですので、一般的な金融機関では担保や保証人なしで借り入れをすることはまずできません。
もう一つは利率の低さです。
一般的な金融機関のビジネスローンでは条件もよりますが2%~14%程度、ノンバンクのビジネスローンでは3%~18%程度のレンジとなることが多いです。
マル経融資では標準の金利を1.21%と低金利にし、事業者の負担を下げています。
マル経融資のデメリット
マル経融資は審査に時間がかかり、申し込みから早くても融資実行までに1か月程度は必要です。
即日融資は望めないので迅速性が求められるシーンでは不向きです。
また上の利用条件でも見ましたが、すでに1年以上の事業実績があることが条件となるので、資金確保に一番苦労するであろう創業にかかる資金調達として利用することはできません。
マル経融資の利用方法・手順
マル経融資を利用する場合、まずは商工会もしくは商工会議所に掛け合って6か月以上の経営指導を受けなければなりません。
指導と言ってもそれほど難しいものではなく、会計に必要な記帳に関する指導を受けたり、経営診断や倒産を防止するための中小企業倒産防止共済に関する案内を受けることも指導内容に入ります。
その他実際の事業で課題となる実務的な細かい内容の指導も受けられるので、せっかくならば実利を得る意味でもしっかりとした指導を受ける方が得です。
経営指導が終わったら、決算書や確定申告書、納税証明書など必要な資料を揃えて指導を行った商工会等に提出します。
個人事業者か法人かの別で必要資料が異なり、個別事案によっても変わってくるので指示に従って資料を用意します。
そして第一段階の審査は商工会もしくは商工会議所自らが行い、返済能力だけでなく経営をしっかり担っていけるかどうかなどを見ます。
この審査を通過すると次に日本政策金融公庫の審査が入ります。
第二段階の公庫の審査でも同じような目線で評価されますが、実際は商工会等の審査で合格していることからあまり厳しく見られることはないようです。
無事に審査が進み適格ありとされれば口座に融資金が振り込まれます。
申し込みから融資実行までの期間目安は約1か月程度です。
まとめ
本章では公的融資制度の一つ「マル経融資」を取り上げ、その性質や利用条件、申し込み手順などを見てきました。
日本政策金融公庫が扱う融資事業の一つであり、地元の商工会や商工会議所を経由して申し込むというのが特徴です。
6か月以上の経営指導を受けなければならないのが煩わしいかもしれませんが、実務的なノウハウを得られるメリットもあるので、急ぎでない場合は資金調達の一手段として考えてみても良いと思います。