コロナの猛威が振るっていた時期にはその影響を最小限に止めるために国民の行動制限を伴う措置が取られました。
これにより事業者にとっては利益を上げることが難しくなったため、国は中小企業や個人事業主などを対象に持続化給付金を支給することになり、国内産業や雇用の維持を何とかつなぎとめることに成功しました。
しかしこの施策を不正に利用し給付金をだまし取る行為が横行し問題となっています。
逮捕事案も多く出ており、不正受給に関わった場合は金銭的なペナルティの他に収監される危険も伴います。
本章では持続化給付金の不正受給に関わった場合にどうなってしまうのか解説します。
Contents
■持続化給付金の不正受給とは?
この給付金はコロナの影響で売り上げが激減し事業の存続が難しくなってしまった事業者を支援するもので、要件に該当しない者は受給することができません。
例えば売り上げが前年と比べて一定程度落ち込んでいるなどの要件を満たす必要があり、それを証明するために申込時に資料の添付を求められます。
しかしこの給付金の創設時には厳格さよりも給付スピードを重視する必要があったため、必要資料は最低限のものだけで、しかもパソコンやスマホなどから遠隔申請も可能であったため、申し込み資格を偽装することもやろうと思えばできてしまいました。
申請書類を改ざん、捏造したり、本来は事業者でないのに事業者であると偽って受給資格を偽装して申請しても通ってしまったため、これが後になって給付金の不正受給事案として数多く報告されるようになりました。
ここで言う不正受給には単純な記載ミスや勘違いなど、故意でないものは含まれませんが、他人からそそのかされて不正受給に関わったようなケースもかなり多く報告されており、この場合は単純ミスなどではなく、他人を媒介していても積極的意図が認められるため不正受給に該当します。
■不正受給のペナルティは?
持続化給付金を不正に受給した場合、その責任は重く単に受給した金銭を返還するだけでは済まされません。
受け取った給付金を全額返金するのは勿論のこと、不正受給をした日から実際に返還した日まで年3%の延滞金を上乗せする必要があります。
延滞金は返還が遅れるほど高くなるので注意が必要です。
延滞金は利息の性質を持つものですが、これとは別に罰金的性質を持つペナルティとして加算金の支払も必要です。
給付された金額と延滞金を合わせた額の2割に相当する額を加算金として上乗せする必要があるので、かなりの痛手になります。
さらに氏名や屋号の公表をされることもあるので、事業の継続に支障をきたす可能性もでてくるかもしれません。
ただ、中小企業庁が調査を開始する前に自主的に返還を申し出た場合、延滞金や加算金などのペナルティは原則として課さないというアナウンスが出ています。
これによって自主的に不正受給された原資の回収ができるだけスムーズに進むように配慮がなされています。
なお、中手企業庁のアナウンスによれば、これまで持続化給付金の不正受給に関して返還の申し出がなされた件数や実際に返還された件数、金額は以下のようになっています。
返還申出件数:23,549件
返還済み件数:17,263件
返還済み金額:約18,032百万円
不正受給が相当の件数に上っていることが分かりますね。
ではもし不正受給したものを返せない場合どうなるのでしょうか。
一般的な借金の場合、自己破産をすることで債務の帳消しが可能ですが、不正受給した金銭の返還義務は自己破産で帳消しにすることはできません。
そのため一生かけてでも返さなければならない責任がずっと付きまとうことになります。
さらに中小企業庁は悪質な事案は刑事告訴するとしており、返還がなされない場合は積極的に刑事告訴が検討されることになると思われます。
刑事告訴がなくても警察は捜査に着手し逮捕などの行動をとることができますが、告訴がある場合は警察の行動を強く後押しすることになるので、逮捕される危険がかなり高まります。
■刑法上の詐欺罪に問われることもある
持続化給付金の不正受給は刑法上の詐欺罪に該当することもあり、その場合は警察に逮捕され、裁判にかけられて収監される可能性があります。
不正受給に関わった多くの事案で詐欺に該当するケースが多いと思われるので、関わった人の多くは逮捕の危険があるということです。
刑法上の詐欺罪を構成する要件を確認してみましょう。
①欺罔要件
欺罔とは相手を騙すということで、給付金不正受給の場合は金銭を交付させるために相手を騙すということです。
②錯誤要件
詐欺罪が成立するためには上で見た欺罔により、被害者が騙されることが必要とされます。
被害者は騙された上で錯誤の状態になることが必要です。
錯誤は真実ではないものを真実だと誤認している状態を指します。
③財物の交付
欺罔と錯誤によって被害者が何らかの財物を交付することで、ここでは中小企業庁が持続化給付金の給付を行う行為があたります。
④移転
給付された財物が実際に被害者から加害者に移転する要素も必要で、ここでは不正受給をした者が給付金を受け取る行為が当たります。
以上で見た詐欺の要件は未遂に終わった場合でも処罰の対象になります。
また第三者の指南などによって行った場合も同様です。
持続化給付金の不正受給では悪質なブローカーだけでなく、一部の税理士や税務署の職員などが中心となって不正受給に関わった事案もあり、これらの者にそそのかされて不正受給を行った人も処罰の対象になります。
■詐欺罪で逮捕された後はどうなる?
詐欺は刑法上の罪であり、民事事案と違って身体拘束を受けるリスクが伴います。
警察に逮捕されてしまった場合、検察に事件が送致された後、微罪処分として釈放されることもありますが、そうでない場合は一定の捜査の末に裁判にかけられます。
裁判にかけられるまでの間は在宅起訴という形で家に帰ることができる場合もありますが、身柄を勾留されて家に帰れないこともあります。
裁判にかけられて有罪となった場合、最高で10年以下の懲役に処せられます。
かなり重い罪であることが分かると思いますが、そのため上で見たように不正受給の自主返還もかなりの数字に上っていると推測できます。
■自分が逮捕される可能性はどれくらい?
個別の事案で不正受給に関わった者が逮捕される確率を示すことはできません。
はっきり言えることは、中小企業庁は不正受給を絶対に許さないと声高にアナウンスしており、調査に全力を注いでいますから、不正受給の相談をした事案から関係者が紐づけられて調査の対象に上がる可能性は高いと言えるでしょう。
自主返還を考えない者は悪質性が有ると認識されて刑事告訴の対象になる可能性が高まりますから、逮捕の可能性もそれだけ上がることになります。
■不正受給に関わってしまったらどうすればいい?
中小企業庁は不正受給の相談を直接受け付けており、自主返還の申し出をすれば必要書類を送ってくれるので指示に従って手続きをすることができます。
中小企業庁による調査が始まる前に自主的に相談して返還の意思を示せば、上で見た金銭的なペナルティを避けることができ、刑事告訴のリスクを下げることができます。
絶対に刑事告訴や逮捕を免れることができるとは限りませんが、かなりのリスク低減になるでしょう。
ただ、正直なところ不正受給に関わった人が個人で直接中小企業庁に相談するのは躊躇われることが多いと思われます。
ですから持続化給付金の不正受給に関わってしまった場合、できるだけ早く弁護士に相談するのがお勧めです。
弁護士は法律的な観点から民事上の不正受給にあたるかどうか、また刑事上の詐欺に該当するかどうか見極めることができるので、どれくらいのリスクがあるのか明確にすることができます。
不正受給や詐欺に該当する場合は中小企業庁に対する相談の際にサポートを受けられますし、警察の捜査の対象にされた場合でも必要な支援を受けられます。
■まとめ
本章では持続化給付金の不正受給に関わってしまった場合のリスクについて見てきました。
不正受給に関わった場合は金銭的なペナルティの対象になる他、刑法上の詐欺に該当し刑事責任を問われる可能性があります。
自主返還できればそうしたペナルティを避けられる可能性もありますが、返還できない場合は自己破産でも金銭的ペナルティから逃れることがでず、刑事告訴される可能性も高まってしまいます。
もし不正受給に関わってしまったら、できるだけ早く弁護士などの専門家に相談し、対応の仕方を考えるようにしましょう。